まえがき

   この本は、中村朋子『英語で読む広島・長崎文献 Hiroshima and Nagasaki: Books Available in English』(中国新聞社事業出版センター、2003)の改訂版である。日英併記を踏襲し、国内外の多くの読者が利用しやすいよう、オンラインで公開をすることにした。

   この本は2部でできている。第1部は、1945年から2003年までに英語で出版された広島と長崎の原爆投下に関する文献資料446冊を①文学 ②児童文学 ③体験記・回想記 ④写真集・画集 ⑤研究・報道の5つのジャンルに分類し、解説を付けて紹介する。ジャンル別の項目では文献を出版年順に並べ、同じ年に複数の原爆関連の英文の本が出版されている場合は、著者名(特定の著者名がない場合は書名)のアルファベット順にした。同一著者によるものは初出と一緒にした。中には一冊の本が複数のジャンルにまたがっている。この場合は、何に一番頁数を割いているかによって、どのジャンルに入れるかを決めた。

   第2部は、英文文献のうち日本人が原著の本を選び、英文文献出版活動の進展を紹介した。巻末に著者名の索引を付け、文献リストを利用しやすいようにした。

   今回の文献リスト作成は3回目の増補改訂になる。最初のリスト掲載は『新英語教育』(1983年7月号 三友社)で、44冊を紹介した。これは英語授業の副教材に英文文献を利用してもらうおうと、英語教師向けにまとめたものである。それぞれに内容の要約と書かれた背景を日本語でコメントした。 次に、幅広い海外の読者を想定し、英文で78冊の書誌情報と注釈を作成、1986年に 『ヒロシマは昔話か』(庄野直美著•新潮社)の英訳The Legacy of Hiroshima(中村朋子訳)の巻末に付けた。さらに、被爆50年の1995年、国内外の読者が利用できるよう183冊に日本語と英語で解説を付け、『和英ヒロシマ事典』 (HIP編集出版)の中で紹介した

   今回、追加した本の特徴は①被爆50年(1995)以降に出版されたもの②医学関係の論文③長崎関連の本一が加わったことである これまでの原爆文献出版で一番出版件数の多かった被爆50年の1995年以降の文献を加えることが今回の文献リスト作成の主な目的である。被爆50年には米国ワシントンの国立スミソニアン航空宇宙博物館で予定されていた原爆展が米国議会や在郷軍人会などの圧力で大幅に縮小されたことをきっかけに、広島と長崎への原爆投下の是非について米国内で激しい論議を引き起こし、多くの本が出版された。この論争に関し、投下側の論理で書かれた本も加えた。

   一方、広島と長崎の被爆者も「元気でいるうちに海外に自らの体験を伝えたい」との思いから被爆50年には翻訳ボランティアの協力も得て、活発に出版活動を進めている。また、本書では医学関係の論文も多く加えた。世界に広がる核被害者の治療活動をしている医療関係者から、58年間にわたるデータの蓄積がある広島と長崎への要請が高いことから、基礎的な論文を紹介した。さらに、長崎原爆資料館図書室所蔵の長崎関連の英文文献を50冊近く追加することができた。  ここに紹介する文献は、すべて一次資料である。筆者が手に取って見ることができたものだけを紹介し、英語と日本語で簡単な説明を付けた。また、日本語版もある場合は、その情報も加えた。

   見つけることができた本はすべて紹介したが、まだ漏れている本が多々あると思われる。「ここにこのような本がある」という情報をぜひ、お寄せいただきたいと願っている。

   本は、まず、インターネットで検索をした。どこからどこまでを「原爆文献」と特定するかは容易ではない。インターネットによる検索では「Hiroshima」「Nagasaki」をキーワードとし、本の題名または副題にこれらのキーワードのどちらか、または両方が入っている本を検索した。加えて、本の中に広島または長崎の被爆に関する章が含まれている本もリストの対象にした。検索にあたっては、以下のサイトを主に利用した。

CiNii Books

日本語サイト: http://ci.nii.ac.jp/books/ 英語サイト: http://ci.nii.ac.jp/books/?l=en

広島平和記念資料館 平和データベース:

日本語サイト: http://www.pcf.city.hiroshima.jp/database/ 英語サイト: http://www.pcf.city.hiroshima.jp/database/index_e.html

   CiNii Booksは国立情報学研究所による情報サービスで、日本国内の大学図書館が所蔵する図書・雑誌の総合目録データベースをWeb上で検索できるシステムである。このサイトで所蔵図書館を確認し、図書館間相互貸借制度を利用して本を手にした。広島平和記念資料館平和データベースは、上記のサイトで所蔵の本を検索することができる。広島平和記念資料館情報資料室に所蔵されている場合は資料室で閲覧。インターネット書店のAMAZON: https://www.amazon.co.jp/ で入手できる本は購入した。インターネット検索のほかに、本の巻末に付いている文献目録も参照した。

   日本国内で多くの原爆関連文献を所蔵しているのは、広島平和記念資料館の情報資料室である。2017年3月31日現在、単行本と雑誌を含めて65,580件を所蔵している。そのうち和書が26,451件、洋書が41言語3,190件である。広島市内ではほかに、広島市立中央図書館にも被爆文献資料が保存されている。2016年末現在、図書や雑誌など約39,104件の多くが開架式の広島資料室と自由閲覧室に配架してある。大学図書館関係では、広島大学、広島市立大学、広島女学院大学、広島修道大学の図書館を利用した。長崎には長崎原爆資料館に図書室があり、開架式で本を利用できる。

   海外の研究機関としては、故バーバラ・レイノルズの貢献によって1975年に設置された米国オハイオ州にあるウイルミントン大学平和資料センターが、日本語と英語の原爆関連の資料をもっとも多く所蔵している。センターは、1940年代後半から現在までに出版された、広島と長崎への原爆投下に関する文献を1,100冊保管。そのうち625冊は、日本語の研究・文学・フィクション・写真集である。また475冊は、英語の文学・詩・写真集である。

   バーバラ・レイノルズ記念文庫室には、50年代から80年代までの被爆者と反核・平和運動の歴史に関する225フィートに及ぶ記録が残っている。また、この文書室には、50年代初頭から撮影された数百枚の写真とおよそ40点の16ミリフィルムがある。これらは、広島・長崎への原爆投下に関する内容の他、バーバラ・レイノルズの家族を映したものもある。さらにバーバラ・レイノルズや多くの被爆者の声を録音したオープンリール式テープも所蔵している。

ウイルミントン大学平和資料センター Wilmington College Peace Resource Center: https://www.wilmington.edu/the-wilmington-difference/prc/

   2003年版の出版にあたり、長崎を訪れて、原爆資料館図書室に所蔵されている英文文献を加えることができた。長崎の証言の会運営委員の故広瀬方人さん、原爆資料館図書室担当の町田葉月さん、桐山飛鳥さんには広島からの度重なる問い合わせにもかかわらず、快くご協力いただいた。また、米国で出版された原爆関連の文献に関して、イリノイ・ウエスレイアン大学のレイモンド・ウイルソン名誉助教授(物理学)から、ご自身の作成した文献リストを提供いただいた。今回、研究分野の本が増えたのは氏のおかげである。

   被爆者による英文手記の多くは私家版で、一般の書店では入手できない場合が多い。そうした本を見つけ出して、紹介するのがこの文献リストのもう一つの目的だった。問い合わせに応じていただくばかりでなく、本を寄贈してくださった方々もある。著者または出版者の方には、制作した本を公共図書館または大学図書館などに寄贈されることをお勧めしたい。そうすれば、多くの人がインターネットの蔵書検索で本を探し出すことができる。

   お世話になった方々は数えきれない。なかでも、貴重なアドバイスを下さった方、情報を提供していただいた方、本を送ってくださった方々は、青山君子先生、榎並幸子さん、栗原千絵子さん、重本泰彦さん、田栗末太さん、西本伸さん、檜山洋子先生、森滝春子さん、故山本佳永子さん、山内雅弥さん、故メアリー・シスク野口さんである。元広島女学院大学の宇吹暁先生には1995年度版の文献リスト作成の時と同様に、今回もアドバイスをいただいた。

   英語に関しては、広島修道大学のジェイムス・ロナルド先生と元広島国際大学の、ティモシー・グティエレス先生のお力添えなしには実現しなかったことを明記し、感謝したい。また、この本の刊行構想から日本語表現まで相談に乗ってくれた夫の、中村敏に感謝する。矢島晶子さんは古い原稿のタイプを引き受けてくださった。

   今回Web版を作成するにあたってお世話になったターニャ・マウスさん(ウイルミントン大学平和資料センター)、ナンシー・メイヤーさん(英文校正)、山田美恵子さん(日英校正)、OKUL. JPの藤村寛さんに深く感謝申し上げたい。

   本書の刊行には、公益法人「ヒロシマ・ナガサキ平和基金」からいただいた平成14年度の助成金を出版費用の一部に充てたことを記してお礼を申し上げる。

改訂版(Web版)に寄せて 2017年9月

中 村 朋 子
リンガヒロシマ代表
元広島国際大学教授

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